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恐ろしく憂鬱なる 萩原朔太郎 こんもりとした森の木立のなかで いちめんに白い蝶類が飛んでゐる むらがる むらがりて飛びめぐる てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ みどりの葉のあつぼつたい隙間から ぴか ぴか ぴか ぴか と光る そのちひさな鋭どい翼 いつぱいに群がつてとびめぐる てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ ああ これはなんといふ憂鬱な幻だ このおもたい手足 おもたい心臟 かぎりなくなやましい 物質と物質との重なり ああ これはなんといふ美しい病氣だらう つかれはてたる神經の なまめかしいたそがれどきに 私はみる ここに女たちの投げ出したおもたい手足を つかれはてた股や乳房のなまめかしい重たさを その鮮血のやうなくちびるは ここにかしこに 私の青ざめた屍體のくちびるに 額に 髮に 髮の毛に 股に 胯に 腋の下に 足くびに 足のうらに みぎの腕にも ひだりの腕にも 腹のうへにも押しあひて息ぐるしく重なりあふ むらがりむらがる 物質と物質との淫猥なるかたまり ここにかしこに追ひみだれたる 蝶のまつくろの集團 ああ この恐ろしい地上の陰影 このなまめかしいまぼろしの森の中に しだいにひろがつてゆく憂鬱の日かげをみつめる その私の心は ばたばたと羽ばたきして 小鳥の死ぬるときの醜いすがたのやうだ ああ このたへがたく惱ましい性の感覺 あまりに恐ろしく憂鬱なる。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 註。 「てふ」「てふ」はチヨーチヨーと讀むべからず。 蝶の原音は「て・ふ」である。 蝶の翼の空氣をうつ感覺を音韻に寫したものである。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 行間や改行など、 コピー元よりの改編あり。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 朗読・作画:Tome館長 肉声朗読の投稿、第二弾。 夜中に40回以上トライして喉が掠れてしまい候。 満足な録音から程遠いも、近づく事ならじ。観念す。 せめてもと細かく音量修正を施す。
by curatortome
| 2013-01-29 11:18
| 動 画
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Comments(4)
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